ラテンアメリカ旅行中に気付いたことがある。
(音節末の)Sの音がよくJ(ホタ)の音に変わるのだ。
(ちびまる子ちゃんの野口さんの「クックックック」のKを発音せずに、喉の形はそのままで喉はしぼりながら音だけ出す感じ)
Vamos → バモッ
Vamos a ver → バモハベール
español → エッパニョール
La verdad es que → ラ ベルダ エッ ケ
Conozco → コノッコ
スペインではC, Zは/θ/(英語でいうth)だがラテンアメリカではSで発音するため、これも対象になる。
等
más rápido → マーラピド
los resultados → ロレスルタードス
のようにRの前でSが落ちるのは知っていたが(スペイン、ラテンアメリカ共通)、これは新たな発見であった。
これらは特に沿岸地方で多く見られ、山岳地域ではあまり聞かなかった。
調べてみるとこれらは実はスペインのアンダルシア地方の発音の特徴らしく、侵略時代にアンダルシアに船の基地があり、出航前にそこで数か月以上待機することもあったとのこと。
乗組員たちはそこで住民と触れ合ううちに言葉がうつり、それが海を渡ってラテンアメリカにも影響を与えた。頻繁に船が来る沿岸部とは異なり、比較的影響が小さい山岳部にはあまり伝播しなかったというわけだ。
ちなみにDの音も全スペイン語圏で共通して落ちる。
Me ha dado un gran susto. メ ア ダーオ グラン ススト
「マジで驚いたよ」
¡Fue demasiado grande! ¿Cuál? ¡La ola! フエ デマシアーオ グランデ
「ばりでかかったぜ」「何が?」「波だよ!」
こういうことを知識として知っているとリスニングの助けになるのである。
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メヒカノは人に聞き返す時によく¿Mande?という。これがまた日本語の「なんて?」にイントネーションもそっくりで面白いのだ。文法的にはmandar「命令する、送る」の接続法3単現、即ち敬意を持ったustedに対しての命令である。つまり「命令してください」→「なんとおっしゃいました?」→「なんつった?」の意味で現在使われているのである。
なぜメヒコだけに残っているのかは諸説あるが、侵略者の基地があったため他地域より多く使う機会があったという説が一番しっくりくる。
侵略時代の言葉は使いたくないという人もいるらしいのだが、使っている人も多くいる。ワテもこれがうつってしまい、ニカラグアでつい口から出た時は「お前さん、メヒコにいたねw」と言われたのだった。
メヒコ以外の国では¿Cómo?をよく使う。ちなみに「いくら?」は¿A cómo?(スペイン、ラテンアメリカ共通)。
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素晴らしいスペイン語学習教材の一つで「スペイン語会話クイックレファレンス」(第三書房)がある。スペインのネイティブが日本の他の教材に比べて早く喋っている音声付きの会話表現集である。アマゾンレビューでは忖度無しのネイティブの速さと言っているものもあるが、忖度は多少あると思う。本場の速さはこんなものではない。
しかしそれにしてもかなりの速さであることには変わりない。リスニング強化を目的として、一通り文法を頭に入れたらこれで耳を慣らして、podcast等に入っていくというのがいい使い道だと思う。ただシャドウイングまでやろうとするとかなり大変である。ワテは好きなエピソディオをオーバーラッピングするに留めている。
その本の222ページで急いでいる乗客とタクシーの運ちゃんとの以下のような会話がある。音声と文章を比べてみてほしい。
¿Por qué no va usted por la Castellana?
「どうしてカステヤーナを行かないんですか」
¿Cómo?
「何すか」
Digo por qué no va usted por el Paseo de la Castellana.
「なんでカステヤーナ通りを行かないんですかって」
(音声)(24秒~)
そう、何回聞いてもva(ir「行く」の直説法3単現)を発音してないのである。
ネイティブに確認したところ、これはnoの後に聞こえるか聞こえないかぐらいの音で一応言ってはいるらしい。つまり彼らの意識ではそこまで重要ではないということなのだ。
日本語でも「ありがとうございます」が「あざーす」になるようなものである。英語より、日本語に似ているスペイン語だからこそ音声学、音韻論的特徴にも共通点が現れるのが、スペイン語の面白いところである。
了